- エリカ
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お口の中の細菌が全身に移動するの?
私たちの口腔内にいる細菌は、さまざまな経路で全身に運ばれていきます。とくに歯周病にかかわる細菌は、糖尿病、動脈硬化症、狭心症・心筋梗塞、早産・低体重児出産などと関係していると言われており、できるだけ体内に取り込まないようにしたいものです。
では、どのように全身に入っていくのでしょう。
① 血行性伝播
歯周病は、歯周ポケットと呼ばれる溝の中で細菌が増殖し、それらが炎症を起こして赤く腫れたり出血したりする病気です。炎症が起こっている部分では目に見えない傷(潰瘍)ができ、そこから細菌や細菌が出す毒素などが血管に入り、全身に運ばれていきます。
また、歯周病の炎症部分では、「炎症性サイトカイン」や「炎症性メディエーター」といった物質がつくられます。これらは「ここで炎症が起きていますよ!」と体の免疫機構に知らせる物質ですが、細菌とともに血液に入って全身に運ばれることで、お口から離れた場所でも問題を起こすのではないかと考えられています。
このように、血液によって細菌や毒素、炎症物質が全身に運ばれる流れを「血行性伝播」といいます。
しかし血行性伝播だけでは説明がつかないことも多く、研究を重ね、新たな考えが生まれてきました。それは、唾液とともに飲み込んだ口腔内細菌が、腸内細菌に悪い影響を与えることで、全身に影響及ぼすのではないかという考えです。
- ヒデヒコ
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なるほど!
- エリカ
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お口の中の細菌が全身に移動するの?
② 消化管性伝播
歯周病と最も関係すると言われるポルフィロモナス・ジンジバリスという細菌を飲み込むと、食道~胃を通って小腸~大腸へと通過していく過程で、腸内細菌に大きく影響を与えていくことがわかりました。ポルフィロモナス・ジンジバリスは腸内に住み着かず、ただ通り過ぎていくのですが、通り過ぎる過程で腸内バランスを乱していくのです。
私たちは1日に唾液を1~1.5L飲み込んでいます。その唾液中にはたくさんの細菌が含まれています。その中に腸内細菌に悪影響を与える細菌が含まれていると考えると心配になるかもしれませんが、からだの仕組みはよくできています。
胃では、胃酸が出ています。空腹時の胃の中はpH1という強酸性の状態で、ここでは細菌はほとんど死んでしまいます。一方、食事をしたあとの胃液pHは4~5という弱酸性になり、この状況になると生きていられる細菌もあります。歯周病にかかわるポルフィロモナス・ジンジバリスを塊になるように培養して行った実験では、pH3の人工胃液中に2時間晒した後でも約7割が生きているという結果が出ました。
つまり、空腹時に飲み込んでしまった細菌は、強酸性の胃酸で死滅するため腸内細菌にほぼ影響を与えませんが、食事とともに飲み込んでしまった細菌は、弱酸性の胃の中を通り抜けて腸まで届き、腸内細菌に影響を与える可能性があるということです。
- ヒデヒコ
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食事とともに運ばれた菌が影響を与えるのか。
- エリカ
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でも、1日3回の食事は大切よね・・・。
安心してください。
歯周病原細菌が口の中で増えないように普段からしっかり口腔清掃を行うとか、歯科医院で歯周病の治療・管理を行っていれば大きな問題にはなりません。健康な口の中にいる細菌は飲み込まれても腸の中で悪さをするわけではありません。
加えて、食後は胃の中が弱酸性になりますが、空腹のときは強酸性となるので、細菌は生きていられません。ということは、食事にしろおやつにしろダラダラと食べ続けるのではなく、空腹の時間をしっかりつくってあげることが大切です。
- エリカ
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空腹の時間も大切なのね!
- ヒデヒコ
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そっか、お口と腸の細菌も関わりあっているんだね。
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口腔内細菌と腸内細菌について、
少しずつ理解が深まってきましたね。
次回は、腸の中で起きている細菌たちの働きをご紹介します。 - ナオミ先生