歯を失ってしまう原因と対策
歯を失う原因は、歯周病とむし歯
私たちの生命活動は、言うまでもなく食べることによって支えられています。食べるために無くてはならない器官が“歯”。ところが、歯の寿命は、長くなった平均寿命に追いついていません。では、歯を失う2大原因は?…それは歯周病とむし歯。なかでも歯周病は、糖尿病や心臓病と同じ仲間の生活習慣病に位置づけられています。
成人のほぼ半数が4mm以上の歯周ポケットを
では、私たち日本人が歯周病にどの程度かかっているかを4mm以上の歯周ポケットを持つ者の割合をベースに調べてみると、年齢が高くなるにつれ増加し、45-54歳になると半数近くが4mm以上の歯周ポケットを持つようになります。歯周病の重度が高い6mm以上の者も年齢が高くなるに従い増える傾向にあります。
歯周病には病原菌がいる
私たちの歯にこびりつく歯垢(プラーク)は、まさに細菌のかたまりです。わずか1mg中に10億もの細菌がすみついているといわれています。その細菌の中に、むし歯の原因菌や歯周病の原因菌がいるのです。では、歯周病の炎症に関係しているのはどのような細菌なのでしょう。現在、10種類の細菌がわかっています。まず、歯肉炎を引き起こすのは、歯ぐきより上の歯顎部の歯垢にいるアクチノマイセス・ビスコーサス菌やアクチノマイセス・ネスランディ菌。一方、歯周炎は歯周ポケットの中にひそむ空気を嫌う菌(嫌気性菌)が原因となります。その種類としては、ポルフィロモナス・ジンジバリス菌(成人性歯周炎)、プレボテーラ・インターメディア菌(若年性歯周炎)などが知られています。いずれにせよ、歯周病は細菌感染症といえます。
歯周病はサイレント・ディシーズ
糖尿病、高血圧症、心臓病といった生活習慣病に共通しているのは、初期段階では本人にあまり自覚症状がないことです。このような病気のことを、サイレント・ディシーズ(静かな病気)と呼んでいます。生活習慣病のひとつである歯周病もその仲間。気がついたときには、かなり進行しているケースが多いのです。
こうして歯が抜けていきます
成人の80%前後が歯周病になっているにもかかわらず、自分がそうだとわかっている人、あるいは自分が歯周病のどのレベルであるのか知っている人は、意外に少ないようです。そこで、歯周病の進行プロセスを追ってみましょう。まず、歯肉炎では歯ぐきがたまに腫れたり、赤く充血したり、歯ブラシに血がにじむ程度です。初期の歯周炎になると、歯周ポケットができ、歯周組織の破壊がはじまります。歯が浮くような感じがすることもあります。中期歯周炎になると、歯ぐきがやせたりブヨブヨになる、食べ物が歯にはさまりやすくなる、口臭がする、硬いものが噛みにくくなる…といった感じになります。やがて末期の歯周炎になると、歯槽骨がほとんど無くなり、歯の根が露出します。歯は著しくぐらついて、最後は抜け落ちます。
あなたの歯周病度チェック
次の質問にあてはまる項目をチェックしてみてください。1~2項目があてはまれば歯周病の可能性があります。3~5項目なら初期あるいは中期歯周炎以上に歯周病が進行している恐れがあります。
- 歯ぐきに赤くはれた部分がある。
- 口臭がなんとなく気になる。
- 歯ぐきがやせてきたみたい。
- 歯と歯の間にものがつまりやすい。
- 歯をみがいたあと、歯ブラシに血がついたり、すすいだ水に血が混じることがある。
- 歯と歯の間の歯ぐきが、鋭角的な三角形ではなく、オムスビ形になっている部分がある。
- ときどき、歯が浮いたような感じがする。
- 指でさわってみて、すこしグラつく歯がある。
- 歯ぐきからウミが出たことがある。
口を清潔に保つことは、全身に良い影響を…
歯周病は単なる口の病気ではありません。最近、さまざまな研究により、歯周病と全身の健康との関係がつぎつぎにわかってきました。たとえば、糖尿病の人には歯周病になっている人が多く、また歯周病が治りにくいという報告があります。歯周病と心臓病・肺炎・低体重児出産・骨粗しょう症などとの関連も指摘されています。
健康寿命を大きく伸ばしましょう
これからの日本の目標は、健康寿命の延伸です。健康寿命とは、健康で明るく元気に生活する期間、つまり寝たきりや痴呆にならない期間のことです。そのためには、歯の寿命を伸ばすことが大切。自分の歯の本数(現在歯数)は各年代で増えていきます。今後も8020運動を続けていくことによって、歯の寿命を伸ばし、健康寿命を伸ばすことが可能です。
歯を失う原因は、むし歯と歯周病
8020推進財団の調査によると、歯を失う原因の約66%がむし歯と歯周病です。歯の健康を守るためにも、歯科疾患の罹患のメカニズムを理解して対応することが大切だといえます。
むし歯について
むし歯のセルフチェック
1.口の中にむし歯がある? | YES NO |
2.冷たいものを飲むとしみる歯がある? | YES NO |
3.歯が抜けたままの箇所がある? | YES NO |
4.歯の表面が汚れている? | YES NO |
5.フッ素入りの歯みがき剤を使用していない? | YES NO |
6.毎食後歯を磨かない? | YES NO |
1つでもYesがあれば、歯科医院で健診を受けましょう。
むし歯の発生原因
むし歯は、口の中の細菌や糖分の摂取、歯の質等の要因がからみ合って発生します。むし歯菌は、歯垢を住みかとしているので、毎日の歯みがきでしっかりと歯垢を取り除くことが大切です。
1.むし歯菌 | 歯垢(プラーク)が住みか。 |
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2.糖分 | むし歯菌も甘いものが大好き。 |
3.歯の質 |
※時間 | 1~3の要因が重なったまま時間が経つとむし歯に。 |
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むし歯の予防と対策
むし歯の原因は歯垢(プラーク)です。この歯垢の中に含まれるむし歯菌が酸をつくり、この酸が歯のエナメル質を溶かしてむし歯をつくるのです。
むし歯は適切な対策をすれば、確実に予防できる歯の病気です。
歯垢除去 | むし歯予防で大切なのは、むし歯菌の住みかである歯垢をしっかり取り除くこと。 そのためにも、毎日の歯みがきが欠かせません。 ブラッシングのポイントは、歯垢のたまりやすいところを重点的に、ていねいにみがくことが大切です。 |
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規則正しい食生活
むし歯も生活習慣病のひとつです。甘いものを制限したり、だらだら食いを控えることが大切です。
図に示すように、間食が増えると口の中が酸性になり、むし歯になりやすい状態が続きます。むし歯菌が酸を発生させて、歯を溶かす状態になってしまいます。
フッ素でむし歯に負けない強い歯を。
フッ素には、歯の脱灰(注1)を抑え再石灰化(注2)を促進する作用があります。
フッ素入り(フッ化物配合)の歯みがき剤を利用することで、歯の質を強くし、むし歯に負けない強い歯をつくりましょう。
(注1)脱灰(だっかい):むし歯菌が糖分を分解し、酸をつくります。そしてこの酸がカルシウムなどのミネラル成分を溶かしてしまうことを脱灰といいます。
(注2)再石灰化:むし歯により、ミネラル成分が溶け出してしまったカルシウムを再び取り込む働きを再石灰化といいます。
定期的な歯科健診を。
かかりつけの歯科医院をつくり、年に1~2回は定期的にお口の状態をチエックしてもらいましょう。フッ素塗布は歯科医院でもしてもらえます。
歯周病について
歯周病は、痛みなどの自覚症状がほとんどなく、気づいた時には手遅れということも少なくありません。また全身の健康とも関係があり、早めに予防・治療をしましょう。
歯周病セルフチエック
1.歯ぐきに赤く腫れた部分がある。 | |
2.口臭がなんとなく気になる。 | |
3.歯ぐきがやせてきたみたい。 | |
4.歯と歯の間にものがつまりやすい。 | |
5.歯をみがいた後、歯ブラシに血がついたり、すすいだ水に血が混じることがある。 | |
6.歯と歯の間の歯ぐきが鋭角的な三角形ではなく、うっ血していてブヨブヨしている。 | |
7.ときどき歯が浮いたよような感じがする。 | |
8.指でさわってみて、少しグラつく歯がある。 | |
9.歯ぐきから膿み(うみ)が出たことがある。 |
《判定》
チエックが1~2個
歯周病の可能性があります。歯みがきの仕方を見直し、歯科医院で診てもらいましょう。
チエックが3~5個
初期あるいは中等度歯周炎以上に歯周病が進行しているおそれがあります。早めに歯科医師に相談しましょう。
歯周病の発生原因
歯と歯ぐきの境目に歯垢・歯石がたまると、その中にいる歯周病菌が歯ぐきに炎症を引き起こします。さらに、免疫力が落ち、悪い生活習慣が加わると、歯ぐきの出血や腫れが続き、ついには歯が抜けてしまいます。
細菌要因 | 歯周病菌をかかえこむ歯垢が原因。 |
環境因子 | 喫煙、ストレス、不規則な生活などの生活習慣。 |
老化や遺伝子的要因 | 老化や遺伝子などに加え、糖尿病や肥満、骨粗しょう症など。 |
歯周病の予防と対策
歯周病の原因は、歯と歯ぐきの間にたまった歯垢の中にいる歯周病菌。これが歯を支える組織を破壊し、歯根膜や歯槽骨を溶かしていきます。
そのままにしておくと歯が抜けてしまうことに。予防の基本は歯周病菌の巣となる歯垢をしっかり取り除くことです。
※歯周ポケットに歯垢がたまり、歯垢の中の歯周病菌が歯ぐきの出血や炎症を引きおこす。
歯周病と身体の病気
歯周病は、歯ぐきが腫れる「歯肉炎」と、歯槽骨まで炎症が及ぶ「歯周炎」を合わせた歯ぐきの病気ですが、全身の健康にも関係しています。糖尿病や動脈硬化、狭心症、心筋梗塞など、さまざまな病気と深くかかわっていることが分かってきています。
セルフケアとプロフェッショナルケア
歯周病予防には、歯みがきなどのセルフケアに加え、歯科医師や歯科衛生士など、専門家のサポートが欠かせません。
セルフケア | セルフケアの基本は歯みがきです。みがくポイントは、みがき残しの多いところ。特に歯と歯ぐきの境目(歯周ポケット)、歯と歯の間、奥歯の後ろ側、奥歯の噛み合う面、前歯の裏側をていねいにみがきましょう。 |
歯ブラシの使い方
・みがくポイント/みがき残しの多いところ
プロフェッショナルケア | 歯科医院で専門的クリーニングをしてもらい、自分では取り除けない歯垢や歯石を除去することが大切です。 年に1~2回は、歯科医院で定期的に歯科健診を受けましょう。 |
口臭について
口臭には、生理的口臭、飲食物・嗜好品による口臭、病的口臭などがありますが、口臭の原因の約90%以上がお口にあります。自分の口臭は、自分ではなかなか分からないものです。しっかり予防対策しましょう。
口臭のセルフチエック
1日1回しか歯を磨かない | |
歯石を1年以上とっていない | |
歯に食べ物がはさまる | |
口の中がネバネバしている | |
歯ぐきから血や膿み(うみ)が出ることがある | |
舌が白っぽい | |
進行したむし歯がある | |
口が渇くことがある | |
たばこを吸っている | |
緊張しやすい | |
ストレスが多い | |
睡眠不足である |
生理的口臭
誰にでもある口臭で、図に示すように、朝起きた時が最も強くなっています。夜寝ている間は唾液の分泌が減り、細菌が増殖します。そしてこの細菌が口の中の汚れ成分を分解し、口臭の原因物質がつくられるのです。
飲食物、嗜好品による口臭
ネギ、ニラ、ニンニクなどを食べた後の口臭。
これは口の中に残った食べかすが直接におう場合と、体内で消化吸収されたにおい物質が血液によって運ばれ、肺から呼気として排出されてにおう場合があります。
お酒くさい息も、アルコールが体内で吸収され、肺からアルコール成分が排出されるからです。これらは時間の経過とともに減少する一時的な口臭です。
治療が必要となる病的口臭
病的口臭の約90%以上は、お口の中の汚れや病気が原因で発生します。
口臭の原因としては、歯周病、舌苔付着、唾液分泌の減少、義歯の清掃不良、進行したむし歯などがあげられます。
口臭が気になったら、まずは歯科医院で診てもらいましょう。
歯周病と口臭
歯周病になると歯肉の組織が破壊され、出血したり膿が出たりします。
そして歯周病菌が、破壊された組織や血球成分などのタンパク質を分解して口臭の原因となる物質(揮発性の硫黄化合物)を発生させます。
また、進行したむし歯があると、口臭の原因にもなります。
毎食後の歯みがきで常にお口の中を清潔に保ちましょう。
セルフケアとプロフェッショナルケア
《セルフケア》
◯歯ブラシや歯間清掃用具を使ってすみずみまでていねいに磨く。
◯舌ブラシなどで舌苔を除去する。
◯義歯の清掃をする。
◯鏡で口の中を見て異常がないか観察する。
◯十分な睡眠とバランスのよい食生活で規則正しい生活を送る。
◯気持ちにゆとりを持って、リラックスした状態で毎日を過ごす。
◯口臭のセルフチエックを行う。
《プロフェッショナルケア》
◯定期的に歯科健診を受ける。
◯口腔内の状態に合った適切な口腔清掃の指導を受ける。
◯専門的歯面清掃や歯石除去をしてもらう。
◯歯周病やむし歯は早めに治療を受ける。
舌の清掃で口臭予防
口臭が発生する大きな原因となるのが舌苔(ぜったい)です。
舌に白色や淡黄色の苔のようなものがついているのに気づいたことありませんか。
これが舌苔で、死んだ細菌や新陳代謝ではがれた粘膜上皮の細胞、血球成分、食物残渣などからできています。
うがいをするだけでは、舌苔を取り除くことはできません。
清掃のポイントは、起床直後に舌ブラシや軟らかい歯ブラシでみがくこと。