#04 歯を失うことは老化ではない。むしろ最近、歯や口の健康状態が全身の健康状態に影響を及ぼすことがわかってきた

再生時間:3:54 アップロード日:2017年01月19日

語り

よく年を取ると歯を失うのは仕方がないと、老化の問題だとか加齢の問題だと考えがちなんですけれど。年を取るからといって歯を失うわけではありません。歯を失う直接の問題は、むし歯になるか歯周病になる、あるいは、外傷とか歯の破折(折れること)というような、そういう原因で歯を失う。主には、むし歯と歯周病です。それぞれ半々の理由なんですけれど。ですから、むし歯にならなければ歯を失うことはありませんし、歯周病にならなければ歯を失うことにならないということですので、歯を失うことと加齢とは直接的な関係はないと言われています。

最近、特に、メディア等でも歯や口の健康状態が、全身の健康状態に関連をするということが取り上げられるようになってきて、一般の方々にとっても歯の状態が悪いといろんな病気にかかりやすかったり、その病気の治療がうまくいかないというようなことが知られるようになってきました。

これは、今世紀以降なんですけれど、この15年ぐらいの間で、医科の研究者と歯科関係の研究者が共同で研究することになって、これまで、歯や口の健康と全身の健康が、ばらばらで評価をされていたものが、実は、かなり関連性が強いということが分かってきました。

その一番幕開けになった研究の一つは、高齢者の施設で、いわゆる口腔ケアを歯科医師や歯科衛生士が2週間に1度定期的に訪問して、口の中をきれいにすると。それ以外の日は、施設の職員の方が、入所者の方の口の手入れをきれいにすると。1999年ぐらいのデータですけれど、それを続けた結果、肺炎が約40%予防できたというデータが出てきました。これも、コホートデータと言って、同じ人たちを追いかけていったデータなんですけれど。そのことによって、実は、歯や口の状態をよくする、口の中をきれいにすることは、単に歯周病の予防だけではなくて肺炎の予防になるんだというようなことが分かってきました。今では、医科の世界でも常識的なものになっていますけど、当時はかなりなインパクトでした。

それと、同じように、例えば野生動物であれば、歯を失うと食べられなくなりますので、それは命に直結するわけですけど、人間でも歯を失った人と失っていない人を、寿命とどれぐらいの関係があるかというようなこともコホートデータで分かるようになってきています。ヨーロッパやアメリカ、日本でもいくつかデータがあって。例えば、日本人の5,700名規模の40歳以上の方、沖縄県の宮古島というところですけど、その方々を15年追いかけたデータがあります。それを見ると、40歳以降で上下の歯がきちっとかめる状態、歯が十分残っている人と残っていない人を比べると、男性だと、15年間の生存率が1.3倍ぐらいというふうなことが分かっています。

じゃ、歯がないと駄目かということになるんですけど、実は、同じ調査で歯が失っていたとしても、スタートの時点で入れ歯をきちっと入れてかめる状態に戻していた人は、やっぱり、女性では特に1.4倍ぐらい生存率が高いというようなことが分かってきていますので。歯や口の状態と全身の健康の状態は、特に寿命の関係で見ても明らかであるというようなことが分かってきています。