インタビュー09インタビュー時年齢:54歳(2017年1月15日)

#05 仕事でも趣味の芝居でも発音がうまくできないと、お客さんのほうが耳をそばだてて聞いてくれるので、何かを失ったというより新しい技を獲得したようなものだ

再生時間:02:52 アップロード日:2017年11月09日

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インタビュー

3月の末に退院したわけですけど、何かできるようになったのは10月ですね。それから、こう仕事もちょっと復帰して、やりましたね。お芝居もその辺で実はちょっとやって。これよりもっと上手くしゃべれないのにせりふ言って、芝居やってたんで。これがまた面白くて。
 お客さんというのは、僕のこと知ってるお客さんもいっぱいいるじゃないですか。僕の発音が上手くいかないと、お客さんみんな聞こうと思って、こうやって聞くんですよね。そうすると見方も変わる。僕はそれ、やっぱり、なるほどと。これは多分お仕事でもね、お客さんと話す時に発音が上手くできないからといって、何か、もちろん今までよりも表現力が減ったりは当然してるんですが、その分皆さんは気をつけて聞いてくれる。そうだよなと。
 僕、妹が1人いるんですけど、妹が、あのー、完全なろうあ者なんですよ。耳は生まれた時から聞こえないんですけど。あのー、ああ、なるほどと。彼女はね、上手く発音するのは難しいじゃないですか。でも分かってればよく聞くし、それとおんなじだと。これは何か失ったんじゃなくて、僕は、新しいね技を獲得したなと思って(笑)。よし、みんな黙ってたってこうやってしゃべれば、普通の人よりも耳をそばだてて聞いてくれるし、「ごめん、分かんなかったんだけどもう一度言ってくれる?」って必ず言ってくれると。おお、ちょっといいものもらったなというふうに、今は思ってますね。
 さまざまなことが僕なんかにとっては、これ負け惜しみとかじゃなくて。ねえ、よく僕も聞くのは、がんなんかになると、みんな、あのー、結構生まれ直したみたいなことを言う人はいっぱいいるじゃない、ほんとかなと思ってたけど、いや、ほんとにそうだと思って。だから僕にとっては、今このしゃべれないとかね、上手く食べらんないとかっていうのは、強がりでも何でもなくて、何かこう新しい自分っていうか。これのおかげでいろいろ獲得したものが大きいなというのは、ほんとに思いますね。

プロフィール

インタビュー09
インタビュー時年齢:54歳
(2017年1月15日)

IT関係の会社を経営。現在は首都圏で仕事をしているが、仕事の都合で関西地方に住んでいた2015年秋に、喉に痛みを感じて受診。中咽頭がんと診断され、東京の病院で口腔手術と放射線治療を受ける。治療の影響で、最初は発話や食事に苦労したが、現在は大分回復している。上手くしゃべれないこともあるが、相手が一生懸命聞こうとしてくれる。かみ合わせの感覚が回復し、口を閉じていられるようになり、集中して仕事ができるようになった。歯はあらゆることに影響していると感じる。