高齢者の口腔健康状態と全身健康状態の関連
厚生科学研究 「8020データバンク調査」 の結果から
厚生科学研究「高齢者の口腔保健と全身的な健康状態の関係についての総合研究」の一環として、80歳高齢者を中心とした全国の広範囲の地域にわたる口腔及び全身健康状態に関する疫学調査(通称、「8020データバンク調査」)が行われた。
調査は1997年9月~1998年11月に岩手・福岡・愛知・新潟4県の24市町村で行われた。新潟県以外の3県では80歳のみを対象とした悉皆調査を行っている。一方、新潟県では悉皆調査ではなく、70歳と80歳を対象とし、事前に行ったアンケート調査結果より健診参加の希望があった者を中心にサンプリングを行っている。
したがって、今回調査における記述統計分析では、新潟県以外の3県(岩手・福岡・愛知)のデータを「全国値」、新潟県のデータは「参考値」として扱っている。 この方針に従い、すべての図表において、岩手・福岡・愛知の3県と新潟のデータは別表で扱っている。
「調査結果の考察」
- (1)今回の調査対象地区における現在歯数の真の平均値は5~6本の範囲内であると推察される。
- (2)咀嚼能力と最も強い関連を示した要因は現在歯数であり、20歯以上群では「全部噛める」と回答した者の割合が無菌顎者よりも約4倍高いことが確認された。また、今回の分析の結果、唾液分泌が低下している者では咀嚼能力が低い傾向にあることが認められた。フェイススケールによるQOL評価と咀嚼能力の関連が他の諸要因から独立して有意であったことは、咀嚼能力がQOL向上に寄与していることを示唆するものである。したがって、今回の分析結果は、「よく噛めることはQOLを高めている」ことを実証したものといえる。
- (3)体力測定項目については、バランス能力(開眼片足立ち)、敏捷性(ステッピング)、脚力(脚伸展パワー)が口腔健康状態と有意な関連を持つことが示された。このうち、バランス能力と口腔の関連については、咬合支持の得られない顎口腔系の状態が平衡機能を障害し、姿勢制御機構に何らかの悪影響を及ぼしていることが推測され、口腔健康状態を良好に保つことが高齢者の転倒防止につながる可能性を示唆していると考えられる。
- (4)口腔健康状態が「視覚」と「聴覚」に有意に関連していることも確認された。80歳高齢者では、口腔健康状態が良好な人たちは視覚と聴覚が良好であることが示された。「8020」ないし「よくかめている」人たちは、視聴覚機能以外にも生活の質と運動・活動能力が優れていると解釈できる。