2020年までの口腔保健に関する国際目標

Global goals for oral health 2020

Martin Hobdell: Houston, USA, Leader of FDI Joint Working Group
Poul Eric Petersen: World Health Organization, Geneva, Switzerland
John Clarkson: International Association for Dental Research, Alexandria, USA
Newell Johnson: FDI Science Commission, Ferney-Voltaire, France

International Dental Journal (2003) 53,285-288

本文書の使用法

種々の異なる状況下にある歯科医師や他の保健計画担当者が、口腔保健計画を立案する際のガイドとして、本文書を使用することを希望する。口腔保健計画を企画しようとする状況や環境はそれぞれ異なっているので、すべてに適した的確なガイドラインを提供していくことは不可能と考えられる。そこで、本文書には、計画を立てていく過程で考慮に入れていく必要性のある領域リストが示されている。また、すでに存在している計画に問題があるか否かを調べるチェックリストとしても役立つであろう。

どのような計画においても、成功するための第一の基本は、計画が正式に採用された場合にどのような既存の資源が利用できるのか、あるいは利用可能となるかを十分理解しておくことである。最初の段階ではすべての資源に関する詳細な情報は必要なく、添付資料Bに示すような質問項目が利用可能な資源をチェックする簡単な指標となるであろう。この質問票は、計画を立てようとする地域や集団の口腔保健問題の優先順位とともに利用すれば、それぞれの状況下において最も適切で継続性のある介入方法を決定していく際に非常に有用となるであろう。

背景

1981年、FDIとWHOは共同で2000年までに達成すべき国際口腔保健目標を設定した。2000年の直前には目標達成に関する評価が行われ、この目標を設定したことが役に立ち、多くの人々はこの目標に到達あるいはそれを超えていることが明らかになった。世界のある一部の人々は目標を達成できずに取り残されてはいるが、この口腔保健目標は、一般的には国と地方政府に口腔の健康の重要性を認識させ、口腔保健のための資源を確保するきっかけとなった。したがって、世界中のすべての国が目標を達成してはいないが、目標の設定は目標達成のための活動に注目を集めるものとなった。

近年FDI、WHO、IADRは、新世紀の2020年までの口腔保健目標を設定する作業を開始し、ここに本文書を提示した。世界各地域からのFDI、WHO、IADRの代表者によるワーキンググループによってこの作業は行われてきた(グループメンバーに関しては添付資料Aを参照)。

本文書の原案は、FDI加盟国の歯科医師会会員に回覧され、批評やコメントを受けるために国際的な歯科公衆衛生リスト・サーバーに配信された。WHOの口腔保健協力センターやIADRも相談を受けた。このようにして得られた個人からの意見、また、各国歯科医師会、IADR、WHO協力センターからの意見は本文書に反映されている。

目的

新しい国際口腔保健のゴール、目標、ターゲットを詳細に提案する本文書は、地域、国、地区レベルの保健政策立案者にその枠組みを提供することを目的としている。ゴールとターゲットには基準となるものをあえて挙げていない。世界的レベルで幅広く対応していくために、国際連合の開発計画報告書にある”Think globally, act locally”「地球的規模で考え、地域で活動する」という地域活動の精神を活発にすることを意図している。したがって、本文書は国および地域の保健政策立案者が、2020年までに達成すべき口腔保健目標の現実的なゴールと基準を決定する際に、利用することができるであろう。

地域、国、地区の口腔保健戦略を決定していく過程にはいくつかの段階がある。本文書は、保健立案者が現在の口腔保健状況を評価し、口腔保健に関するゴール、目標、ターゲットを設定していく最初の段階で有用である。新しい目標と1981年の目標には数多くの相違点がある。第一に、2020年までの目標は総論的なものである。その理由は、地域、国、地区の口腔保健政策の展開と活動を活発にし、地域社会に適した詳細なゴールを設定することを意図したからである。1981年の目標でゴールとしたものは、ある面で今回の目標のターゲットに似ている。第二に、2020年までの目標には数値は示されていない。数値目標は情報ベースの適切さ、地域における優先順位、口腔保健システム、また、疾病の有病状況、重症度、社会経済的状況等の地域の実状に応じて設定されるべきものである。

口腔疾患の疫学だけでなく、政治的、社会経済的、文化的、法規的な面においてもそれぞれの状況は大きく異なっている。そこで、特定の環境および口腔の健康への決定因子に関する詳しい知識が必要となる。それは、既知の直接的なリスク要因を明らかにするだけでなく、口腔の健康を得るための社会的、法規的、経済的な環境づくりを支援する保健政策を推進していくために不可欠なものである。

以下に示すゴール、目標、ターゲットは、現在の口腔疾患の分類とその診断基準をもとに提案されている。それらを表現する別の方法も十分考慮し、他の疾患群との関連においてできるだけ分かりやすく設定された。

ゴール、目標、ターゲット

ゴール

1 口腔および頭蓋顔面領域の疾患が、全身の健康および心理社会的発達に及ぼす影響を最小限にすることによって、口腔の健康を推進していく重要性を強調し、また、口腔疾患による大きな苦しみを背負っている人々の口腔疾患を減らしていく。
2 口腔および頭蓋顔面領域に出現する全身疾患が、個人および社会に及ぼす影響を最小限にし、また、これらの徴候を全身疾患の早期診断、予防、効果的な対応に利用する。

目標

1 口腔および頭蓋顔面領域の疾患による死亡率を減少させる。
2 口腔および頭蓋顔面領域の疾患の有病率を減少させて、QOLを向上する。
3 効果的な実践をもとにしたシステマティックレビューを行って、口腔保健システムの中で継続可能で優先順位の高い政策やプログラムを推進していく(例:保健政策は科学的根拠に基づいたものとする)。
4 口腔および頭蓋顔面領域の疾患を予防、コントロールしていくために、利用可能で費用効果の高い口腔保健システムを開発していく。
5 オーラルヘルスプロモーションおよびケアを、共通のリスクファクターに対するアプローチによって、健康に関連した他分野に統合していく。
6 健康に影響する因子を人々が自らコントロールできるように支援していく口腔保健プログラムを開発する。
7 プロセスと結果をモニターできる口腔保健サーベイランスシステムおよびその方法を強化していく。
8 ケア提供者の社会的責任を明らかにし、倫理的な実践を推進していく。
9 国内の異なる社会経済層の間に認められる口腔保健の不均衡や、各国間に存在する口腔保健の不公平を減少させる。
10 口腔の疾患や異常に関する正確な疫学サーベイランスのトレーニングを受けた保健医療提供者の数を増加する。

ターゲット

2020年までに、ベースライン時に設定された以下に示す目標が達成されるだろう。

1.疼痛

2.機能障害

3.感染症

4.口腔咽頭癌

5.HIV感染の口腔内症状の出現

6.ノーマ(水癌)

7.外傷

8.頭蓋顔面部の異常

9.う蝕

10.歯の成長発育期の異常

11.歯周疾患

12.口腔粘膜疾患

13.唾液腺疾患

14.歯の喪失

15.ヘルスケアサービス

16.ヘルスケア情報システム

添付資料A (作業グループのメンバー)