●カナダ・予防医療研究班によるう蝕予防対策の評価 | |||
〈出典〉Lewis DW. Ismail AI:Periodic health examination, 1995 update:2. Prevention of dental caries. The Canadian Task Force on the Periodic Health Examination, CMAJ. 152(6): 836-46, 1995 | |||
http://www.cmaj.ca/cgi/content/abstract/152/6/836 | |||
http://collection.nlc-bnc.ca/100/201/300/cdn_medical_association/cmaj/vol-152/issue-6/0836e.htm#toc | |||
予防法 | 効果 | 根拠のレベル** | 推奨度* |
水道水フッ化物添加 | う蝕有病者率において20%〜40%のう蝕予防効果がある。 | U-1:歯冠う蝕予防;無作為化ではないが適正にデザインされた地域での比較対照試験がある。 | A:水道水フッ素化は歯冠,歯根う蝕予防に最も効果があり,全ての人が平等に受けられ,効率的であるという科学的証拠が十分ある。 |
毎日のフッ素補助剤(上水道のフッ素濃度が0.3ppm以下の地域に限る) | 子供におけるう蝕有病者率の減少は水道水フッ素化の場合と同等である。毎日子供に錠剤を与えるという両親のコンプライアンス(承諾してそれに従って実行すること)は乏しい。 | U-1:無作為化ではない比較対照試験がある。カナダ歯科医師会によって承認された新しい使用量の推奨は臨床試験に含まれていない。 | A:適正な量が注意深く与えられれば推奨すベき科学的証拠が十分ある。しかし過量投与は近年増加している歯牙フッ素症の原因となる。 |
専門家による酸性フッ素リン酸ゲルなどのフッ化物局所応用 | この方法は労力がかかり高価な方法なので,上水道フッ素化地区,非フッ素化地区にかかわらず地域のほとんどの患者に対して有効ではなく,効率的でもない。選択的に用いれば効果的である。 | T:歯冠う蝕予防:かつてのう蝕有病者率が高い時期において,主に子供と思春期の者を含む無作為化比較対照試験がある。 V:放射線治療や化学療法による唾液分泌減少に起因する歯根う蝕や多数歯う蝕の予防:専門家の意見。 |
A:う蝕活動性が非常に高い人,ハイリスクの人に対して推奨される科学的証拠が十分ある。なぜならこのような人たちのう蝕はかつてのう蝕有病者率が高い時期における一般集団のう蝕と類似しているため。 C:一般集団において定期的歯科健診で行う場合は証拠に乏しい。しかし,他の理由から個別患者には推奨されるかもしれない。 |
専門家によるフッ化物局所応用前の口腔清掃 | 口腔清掃をしても,しなくてもう蝕有病者率は同じである。 | T:無作為化比較対照試験がある。 | E:そのような口腔清掃は定期的歯科健診から除外すべきであるという最良の証拠がある。 |
フッ化物洗口法(0.20%NaF週1回法,0.05%NaF毎日法) | 統計学的,臨床的にう蝕有病者率が有意に減少することが過去に報告されている。しかしう蝕有病者率が減少している時代において,ほとんどの子供達にこの方法が有効かどうかは疑わしい。 | T:小学校児童を対象とした古い無作為化比較対照試験ならびに最近の無作為化比較対照試験がある。 V:最近の薬局で購入して家庭で実施するフッ化物洗口の効果については十分評価されていない。 |
A:う蝕活動性の高いあるいはハイリスクに対しての利用には最良の証拠がある。 C:一般的な集団に村しての利用に対する効果の証拠は乏しい。しかし他の理由で個別患者に対しての利用は推奨されるかもしれない。 E:薬局で購入して家庭で実施するフッ化物洗口の効果を否定する最良の証拠がある。 |
個人で使うフッ化物合有歯磨剤 | 毎日の使用で統計学的に有意なう蝕有病者率の減少が認められる。約90%の市販歯磨剤がフッ化物を含んでいるので,この方法は個人利用できるフッ素源として重要である。 | T:古い無作為化比較対照試験(歯冠う蝕)と最近の歯根う蝕の比較対照試験がある。 | A:規則的な口腔衛生の一部としてフッ化物歯磨剤を毎日使うべきである。小さな子供は過量の歯磨剤を飲み込まないような監視が必要。 |
歯ブラシとフロスによる毎日の歯垢除去 | フッ素を含まない歯磨剤による毎日の歯磨きとフロスではう蝕予防効果はないが,それらは良好な口腔衛生の一部であり歯肉炎を予防するのに役立つ。 | V:専門家の意見と記述研究による。 U-1:低年齢児に限った研究による証拠がある。 |
C:う蝕を予防するという科学的証拠に乏しい。しかしフッ素含有歯磨剤を用いたブラツシングは不可欠であり,推奨度Aのう蝕予防効果がある。 |
定期歯科健診での口腔清掃 | 伝統的な口腔清掃はう蝕予防には有効ではないが着色や歯石除去の目的で行われる。個人による毎日の口腔清掃(歯磨きとフロス)は着色と歯石形成を予防する。 | T:無作為化比較対照試験がある。その中にはフッ化物歯磨剤の使用も含まれる。 | C:定期検診時の口腔清掃がう蝕予防に有効であるという証拠は乏しい。しかしその他の理由で患者個人に推奨されるかもしれない。 |
シーラント | 選択的に用いられれば小窩裂溝う蝕には統計学的にも臨床的にも有意なう蝕予防効果がある。 | T:無作為化比較対照試験がある。 | A:ハイリスクの子供において永久歯臼歯萌出後3年以内の歯に選択的に用いると効果的であるという最良な証拠がある。 |
カウンセリング:う蝕を引き起こすような食物の摂取を控える。 | 初期にはそのような証拠があるが,最近のデータでは砂糖の食餌療法はう蝕罹患に大きな影響を与えない。 | U-1:1施設における一つの試験がある。 U-2:最近のいくつかのコホート研究がある。 |
C:一般集団において食餌の変化をおこすよう効果があるという証拠あるいは食餌変化を誘発するような歯科的カウンセリングの効果を示す証拠に乏しい。しかしハイリスクの人や哺乳瓶う蝕を予防するために幼児の食餌指導をすることは臨床的には賢明なことである。 |
カウンセリング:夜間ならびに長期間の(水以外の液体を入れた)哺乳瓶を与えることを控える。 | 糖質を含んだ飲料を哺乳瓶で長期間与えることは哺乳瓶う蝕の最も大きな原因である。しかし親に対するこういった習慣を改めるようなカウンセリングが効果的であるかどうかは評価されていない。 | U-2:症例対照研究がある。 | C:う蝕予防のために親に対してこのような摂食習慣を改めるようなカウンセリングが推奨される。 |
※【推奨度】 | |||
A:推奨を支持するのにPHE*が有効であるとみなす最良な証拠がある。 | |||
B:推奨を支持するのにPHEが有効であるとみなす中等度の良好な証拠がある。 | |||
C:PHEによる有効性の条件を含む,含まないに関わらず証拠に乏しい。しかしその他の理由から推奨される余地がある。 | |||
D:推奨を支持するのにPHEが有効であるとする以外の中等度の良好な証拠がある。 | |||
E:推奨を支持するのにPHEが有効であるとする以外の最良な証拠がある。 | |||
*PHE(Periodic Health Examination):定期的に第一次予防と第二次予防,すなわち疾病の発生リスクを明らかにするとともに,無症状の早期の段階でその疾病の診断を行う活動組織。 | |||
※※【証拠のレベル】 | |||
T:少なくとも一つ以上の適正な無作為対照試験(RCT:randomizedcontrolledtrial)によって証拠が得られている。 | |||
T-1:無作為ではないが,適正な実験デザインのもとに行われた対照試験によって証拠が得られている。 | |||
T-2:1箇所以上の施設や研究グループによる適正なデザインのもとに行われたコホート研究または症例対照試験によって証拠が得られている。 | |||
T-3:介入あるいは非介入による時間または地区間の比較研究によって証拠が得られている。 | |||
U:臨床経験に基づく権威者の意見,記述研究や専門委員会の報告書によるもの。 |